和彫りの名品 解説
びらびらかんざし
びらびら簪
- 江戸時代 19世紀
- 京都国立博物館
画像出典:ColBase(https://colbase.nich.go.jp/)を加工して作成
身体の装飾具に限ると、日本の金工かざりは、世界各地の工芸と比べ必ずしも盛んではなかった。室町時代ごろから、笄(こうがい)が用いられはじめたが、これも遺品としては刀装具の方が多い。江戸時代になり、町民文化が勢いをもつに至って、ようやくに玉のかざりを付けた金属製の挿し簪が普及するようになった。
身をかざる品は、縄文時代の耳栓(ピアス)のように、時代・地域を問わず、しだいに派手になったり肥大化したりする傾向が強い。簪の場合、その行き着いた先がびらびら簪だったと考える向きもある。びらびら簪の呼称は、垂飾がこすれて涼やかな音が出るところからきている。江戸時代中期、元文・寛保(1736~43)のころ、舞子が金銀細工の梅ヶ枝に色紙短冊をつけたものを挿したもの(『我衣』がその早い例といわれる。
本品のような金銀の巧緻な細工によるびらびら簪は、さらに時期が降って寛政年間(1789~1800)ごろに成立したという(『歴世女装考』)。金銀の薄板や針金を細かく切って組み合わせる細工は、これ以前の日本の金工技術の歴史上ほとんど見られない。こうした工芸が、装身具の華美化に促されて自生したことも十分考えうるが、簪などが早くから同様の金銀細工により製作されてきた中国・清からの影響も想定されないだろうか。
出典
特別展覧会 「金色のかざり」 金属工芸にみる日本美
解説:久保 智康 発行:京都国立博物館