江戸時代の名品
1603 - 1868
金工は都市民の生活を飾る
自己主張する宮廷の飾り金具
江戸時代、経済力をつけた都市民にとって、金工のかざりはごく日常的なものになった。簪・櫛などの飾身具、煙管・煙草入などの喫煙具、矢立などの文房具等々、小さなものに細密な意匠・技法をほどこした品々が生活をかざった。武家も同様に、大名家の豪華な調度・武具から広く武士が携えた刀装具まで、その作例は枚挙にいとまがない。これらの品々をとおし、さまざまな意匠造形を楽しんだ人々の、かざりに対する思い入れ、意識の高さは、欧米のあまたあるコレクションを例にあげるまでもなく、世界的にも特筆されるものであろう。
また、祭りの神輿や曳山はハレの場を盛り上げ、町の経済力を示すため技巧をこらした金具で飾られるようになった。これら、金工かざりを製作すべく、錺師(かざりし)や刀装の彫物師をはじめとする職人が都市に工房を構えた。
建物や障壁画の飾金具は、桃山時代になり、それまでの小さな引き立て役から突如として大型化し、さまざまな意匠を凝らし金色に輝くものが出現した。このような飾金具の自己主張は、江戸時代に入り、宮廷関係の書院、座敷の引手、釘隠しに形を変えて発現する。桂離宮に代表されるように、日常の風物にその場に応じた寓意性を持たせた金具デザインは、ときに華やかな色彩の七宝がほどこされた。「綺麗な」座敷かざりを楽しんだ、宮廷サロンの文化的雰囲気がよく伝わってくる。
出典:特別展覧会 「金色のかざり」 金属工芸にみる日本美
解説:久保 智康 発行:京都国立博物館