明治時代の名品

1868 - 1912

多くの装飾様式・技法が生み出され
金工技術は頂点に

江戸時代に入って大きな戦もなく政治が安定すると、鍔などの刀装金具はますます装飾品化していった。江戸期においては、多くの装飾様式、装飾技法が生み出されたのである。そしてその頂点に達したのが幕末・明治といえる。幕末になると大名家をしのぐ豪商たちが現れ、脇差しの帯刀を許された町人たちは、町彫りの刀装金工たちに贅を尽くした刀装金具をつくらせた。
 やがて、日本は開国し、武家社会は崩壊する。金工たちは、殖産興業政策を推し進める明治政府の指導のもとに、刀装具造りで培った金工技法で、花瓶や香炉をつくり、当時欧米で盛んにおこなわれていた万国博覧会に出品する。すると、各種の色金をつかった複雑な象嵌(ぞうがん)や彫りは欧米人の目にとまり、大評判になる。
 加納夏雄や後藤一乗ら、京金工達が創り出した高度な技を駆使しながらも簡素で品格、風格を感じさせる世界は、この時代が金工の歴史において、技術的な頂点にあったこと、そしてその高度に発達した技法を駆使することにより、今までだれも表現し得なかった世界を初めて表現し得たともいえる。

出典:「幕末・明治の鐔・刀装金工」
企画監修:村田 理如(清水三年坂美術館) 発行:マリア書房