南北朝時代の名品
1336 - 1392
工芸に多彩な意匠が出現
金色の金具が武具かざりの主役に
鎌倉から室町時代にかけての工芸は、ひじょうに多彩なかざり意匠が表されるようになった。大切なのは、東アジア地域の人々が同じ意匠を用いて生活をかざっていたことで、意匠のもつ意味を同じように理解していたのである。その背景は、漢字を媒介として情報が伝達された東アジア漢字文化圏が早くから形成されたことと、とくに中世の東シナ海、日本海を往き交う人々が、漢詩を詠み理解することで文化的意志疎通を図っていたことが大きい要因だった。
南北朝時代に、貴賤や都鄙の文化が混交し新たな風俗、芸能が生み出されたことを論じるとき必ず引き合いに出されるのが「京鎌倉ヲコキマゼテ一座ソロハヌエセ連歌」という二条河原楽書である。この「こき混ぜ」になった社会の雰囲気は、人々の飾り意識にも新たな活力を与えた。 とりわけ武士の風体はにわかに派手になった。もともと武器・武具は、平安後期に一定の形式が定まった時点から、階層性、非日常性、そして聖性を反映した厚いかざりが施された。南北朝時代から室町時代にかけ、色あざやかな威し糸とともに、文様を彫り表した金色の金具が武具かざりの主役となったのである。
出典:特別展覧会 「金色のかざり」 金属工芸にみる日本美
解説:久保 智康 発行:京都国立博物館