和彫りの名品 解説
こんどうはなのしきりほうおうもんくぎかくし
金銅花熨斗桐鳳凰文釘隠
- 国宝
- 江戸時代 17世紀
- 二条城(京都)
黒書院、そして大広間の天井・内法両長押に打たれた釘隠である。黒書院で256個、大広間で206個が現存し、その造作、大きさ、数量ともに近世以降の釘隠中で他を圧倒する。いずれも熨斗包みの牡丹花枝をかたどったもので、重ね折りして二山の耳をみせた熨斗紙形一枚板の左右に、地板と牡丹文透彫り金銅板を重ねたものを取り付ける。主文様の桐鳳凰は鍍金し、その背景をななこ地に墨差しする。
一見したところ同じように見える黒書院釘隠しと大広間釘隠しの間には、実は大きな相違点がある。前者は熨斗紙下段に雲形を設け、花樹文や七宝つなぎ、市松などの幾何学模様を金具毎にことごとく意匠を違えて表す。まだ土披にも、樹木、草花や岩などを多彩に描く。耳は三葉葵紋を必ず添えるという約束を踏まえながらも、背景は左右で異なる幾何学文様とし、時には唐草や雲形、紋散らしといった多様さをみせる。さらに重ね折り部も、唐花唐草文を主体とはするが、花散らしや扇散らし、花筏、雲竜などといった工芸で常連の意匠を表したものが所々にある。考え付く限りの、ありとあらゆる意匠を各部位に配し、それらの組み合わせを変えることで、ほとんど無数の意匠構成バリエーションを釘隠しに与えた造形感覚の出現は、伝統意匠を墨守した室町時代以前にはおよそ考えも及ばなかった事態である。
これに対し大広間釘隠は、墨書院のような雲形は表さず、各部分の意匠構成が基本的にすべて同じとなっている。自由に意匠表現を行っているのは土坡部分に限られ、ここに岩や植物文を、個体ごとに種類を違えて描き、細かな鏨使いで岩の苔や列点で唐草を表したりしている。しかし大型の釘隠全体からすれば、きわめて小さな意匠表現に過ぎない。
二の丸御殿の大型釘隠は、いずれも寛永度造営に伴い製作されたものと考えられてきたが、黒書院・大広間釘隠群の作行きの懸隔は、そのような捉え方に重大な問題を投げかける。黒書院釘隠のごとく雲形に多彩な意匠を表すのは、高台寺霊屋釘隠もまた同様で、桃山時代工芸の気分を濃厚に留めている。対して大広間釘隠しの全体に統一された意匠性は、江戸時代初期に顕在化する傾向である。したがって、黒書院釘隠しは慶長度造成時に製作されたものが寛永度に再度使用された、という可能性が生じてくる。
出典
特別展覧会 「金色のかざり」 金属工芸にみる日本美
解説:久保 智康 発行:京都国立博物館