和彫りの名品 解説
しっぽうりゅうすいじゃかごもんくぎかくし
七宝 流水蛇籠文釘隠
- 江戸時代 17世紀
- 細見美術館(京都)
夕顔文釘隠とともに聚楽第(じゅらくだい)所用と伝えられる大型釘隠であるが、作風はかなり異なっている。モチーフは、河川の水流調節や護岸のために栗石を入れて沈めた蛇籠の図である。銅板に籠目を透かし、裏から青の七宝釉を被せた別板を鋲留めする。蛇籠を支える杭の樹皮模様の刻線や、流水の渦と波の魚々子表現は細密さをきわめる。象嵌七宝の釉は、杭の年輪や節に赤・白・深緑・黒、また水波に白と水色を賦彩する。さらには、蛇籠と杭を鍍金、流水を鍍銀として、七宝との色の取り合わせに気を配っている。
このように本品は、夕顔文釘隠に比べあらゆる部分に技巧性が強調され、同一の工房、製作時期とは見なしにくい。彫金技法の作風からいえば、これは桃山期よりも寛永期前後の江戸初期に顕在化する現象である。波頭に差された明るい水色釉が、寛永十一年(1634)造営になる名古屋城本丸御殿上洛殿の襖引手のうちでも、やや新しい段階のものに使用されていることも考慮の一つとなろう。
なお本品と同意匠、同工の品が複数伝存しており、後世に手焙の蓋に改造されたりして賞玩されている。
出典
特別展覧会 「金色のかざり」 金属工芸にみる日本美
解説:久保 智康 発行:京都国立博物館