和彫りの名品 解説
しっぽうゆうがおもんくぎかくし
七宝 夕顔文釘隠
- 桃山~江戸時代 17世紀
- 細見美術館(京都)
聚楽第(じゅらくだい)所用と言い伝える大型の釘隠である。全体に菱形を呈し、夕顔の花弁と葉をあしらう。鍛造、もしくは鋤彫りによって銅胎の表面に花弁と葉脈部分に凹部を作り出し、そこへ赤・白・深緑・青緑・緑の五色の釉を分け入れる。とりわけ主弁の一区画内に二色の釉を置き、その境にグラデーション効果を見せる無線七宝の技法まで駆使していて、葉表面の細密な魚々子地の彫金もあわせて、技巧的な見所もこの上なく豊富である。
近世七宝で製作年を押さえうる作例は、二条城二の丸御殿黒書院帳台構(ちょうだいがまえ)(寛永三年[1626])など、江戸時代初期までしか遡ることができず、またそれらは全体の金具意匠のごく一部に七宝を施すにすぎない。したがって、本品のように七宝の色彩を全面に押し出した飾金具が1615年の慶長期以前まで遡るかどうかは今のところ確証がない。
とはいえ、夕顔のモチーフを一定の対称性をもって息詰まるくらい大振りに充填する意匠性は、唐織(からおり)や繍箔(ぬいはく)で彩られた衣装などのそれとも相い通じるもので、まぎれもなく桃山時代の気分で貫かれている。豪壮さと技巧性を兼ね備えた作風を見ると、聚楽第所用との伝承もうなずけるものがある。
出典
特別展覧会 「金色のかざり」 金属工芸にみる日本美
解説:久保 智康 発行:京都国立博物館