和彫りの名品 解説

こんどうれんげがたけい

金銅蓮華形磬

  • 重要文化財
  • 鎌倉時代 13世紀
  • 細見美術館(京都)

 磬(けい)の多くは山形をなすが、鎌倉時代になって蓮華をかたどった磬が出現した。それは、仏教工芸に現される意匠への指向性がこの時期になり宝相華文から蓮華文へと大きく移りつつあったことを反映しているものと思われる。
 本品は、伝存の蓮華形磬としてはひじょうに大ぶりなもの。斜め上方から見た状態をかたどり、上半に大きな蓮肉を表して撞座(つきざ)とする。下半の蓮弁飾りも一枚一枚を大きく表し、重弁としている。とりわけ各弁の根元に萼(がく)まで描き、薄肉周りの蕊(しべ)を波形に表すなど、全体的に写実的な造形意識がうかがえる。このような傾向性は、鎌倉時代盛期の密教工芸などに顕在化した装飾性の高まりと軌を一にしているものと思われる。
 なお本品をはじめとする蓮華形磬の多くは撞座の蓮肉周辺に撞木(しゅもく)の当たり痕がほとんど見えず、使用の頻度がさほど高くなかったようである。南北朝時代になり、蓮華形磬は小振りとなり、蓮弁も形の委縮したものや異様に外反した例が知られるが、その後はほとんど使われなくなった。梵音具としては、実用よりも装飾的意識が勝ちすぎた結果だったのかも知れない。

出典
特別展覧会 「金色のかざり」 金属工芸にみる日本美
解説:久保 智康 発行:京都国立博物館

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金銅蓮華形磬