和彫りの名品 解説
なぎなたぼこ
長刀鉾
- 江戸時代 19世紀(金具)
- 公益財団法人祇園祭山鉾連合会
祇園祭の山鉾巡行の先頭を行く長刀鉾は、応仁の乱後の明応九年(1500)再興時の十七基のくじ改めで「先規ヨリ」一番とされており(『祇園社記』第十五)、乱の以前から特別の存在であった。しかし度々の罹災でその都度修復を受け、現在の鉾部材のどれが何時まで遡るか、推定は難しい。
長刀鉾町文書によると、元禄八年(1695)に破風金具、翌年に坪金具を東六条寺内(東本願寺の東側)の錺屋長右衛門が製作している。しかしそれらは現存せず、今の屋根は文政十一年(1828)に修造され、破風金具は天保三年(1832)に錺師柏屋善七が製作した(金具箱書)。妻軒付(つまのきつけ)と破風端の八双金具は花菱七宝繋ぎ文を地彫りと魚々子地で表し、破風の中央に群蝶文、左右に芙蓉文をすこぶる高肉に打出した大振りな金具を持つ。
軒の垂木を巻く飾金具も圧巻である。破風金具と合わせ、錺師善七が天保四年にかけて製作した(以下町文書)。全部で二六本に及ぶ垂木に、向かって右側は松・蔦・楓・椿・菊などの花樹を、左側は薄(すすき)・河骨(こうほね)・睡蓮・沢潟(おもだか)・菖蒲など水辺の草花を、一本ごとに違えて立体的に透彫りする。これは、軒裏に描かれた松村景文筆になる山鳥図と水禽図に合わせた意匠構成である。
出典
特別展覧会 「金色のかざり」 金属工芸にみる日本美
解説:久保 智康 発行:京都国立博物館