和彫りの名品 解説

きんじらでんけぬきがたたち

金地螺鈿毛抜形太刀

  • 国宝
  • 平安時代 12世紀
  • 春日大社(奈良)

 柄(つか)の化粧透かしの形状から毛抜形太刀と呼ばれるこの形式は、故実書や古記録等に「野劔(のだち)」と記され、元来は公家の中でも宮中を護る衛府官人の佩用(はいよう)する兵杖太刀であった。古式のものは、身と茎(なかご)を共鉄(ともがね)で造り、茎そのものを毛抜形に透かす。本品も本来形の造りで、茎の鉄地に金銅板を張り、兜金(かぶとがね)・覆輪(ふくりん)をかけている。
 鞘は全体を漆地に金粉を密に蒔いて研ぎ出した金沃懸地(きんいかけじ)とし、竹林に猫が雀を負う図を螺鈿で描く。螺鈿の貝裁文には細部に刻線を加え、猫の斑文に緑や白の瑠璃(ガラス)や黒漆を埋め込んで、金色との色彩の妙味を見せる。この文様は従来和様意匠とされてきたが、最近猪熊兼樹氏により、宋画の捕雀猫図に画題・表現の遡源を求める考えが出されたが、首肯すべき見解である。
 いずれにしても、このような金色の太刀が、三位以上の武官が佩用する金作り野劔(四位以下は銀作り)というものであった。本品の金具回りもすべてが金銅製で、魚々子地に、蝶や鳥まで配した宝相華唐草文(ほうそうげからくさもん)を、実に細かな鋤彫りにより彫り出している。それはルーペで観察しても、中尊寺堂内具など、仏教荘厳の飾金具といささかの遜色もなく、魚々子も信じがたいほどの細かさで、彫金工人の執念を感じずにはいられない。

出典
特別展覧会 「金色のかざり」 金属工芸にみる日本美
解説:久保 智康 発行:京都国立博物館

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金地螺鈿毛抜形太刀