和彫りの名品 解説

こんどうほうそうげもんにょい

金銅宝相華文如意

  • 重要文化財
  • 平安時代 天暦11年(957)以前
  • 東京国立博物館
  • 画像出典:
    (1枚目)ColBase(https://colbase.nich.go.jp/)を加工して作成
  • (2,3枚目)Image:TNM Image Archives

 如意は、僧が論義法要などで威儀をただす際に手に持つ法具で、痒い背中を意の如くに掻く孫の手に由来する。正倉院に伝来する古例は確かに孫の手形であるが、本品のような雲形の大きな頭部をもつものも、中国から出土しており、遅くとも晩唐には成立していたことが知られる。
 本品はそれよりもやや下がった時期の如意ながら、日本の雲形如意としては伝存最古の品である。頭部の根元の両面に「施入」(表)、「天暦十一年還入養勝院長財」(裏)と細い針書き銘があり、製作年の下限が知られる。
 表面に宝相華文を左右対称に表し、縁に沿ってやはり宝相華文の小花弁を列弁風に連ねている。宝相華は花弁と葉を明確に描き分けている。前者は、花蘂(かずい)を表す俯瞰形(ふかんけい)のものと、これを表さない側面形のもの、そして外周列弁の三様があり、各々の花弁の子弁方向に沿って、細く短い蹴彫り線で羽毛状に弁脈を表している。対して葉の方は、各々の中央に舟形の子葉を配し、そこから放射状に長い蹴彫り線で葉脈を表現している。
 以上のごとき宝相華の諸要素をきちんと表現する図様は、唐代金銀器にしばしば見られるもので、この如意の古様さをよく示している。日本金工の宝相華文は、平安時代後期になると、とくに葉の表現が変容をきたし茎が強調された唐草となり、花弁の表現のみが宝相華を示す記号として中世まで引き継がれていく。本品は、その意味で中国宝相華文の正統的な姿を最もよく留めている作例ということができよう。
 なお頭部から柄に向かい屈曲する箇所が破断し、修理した際の蓮華文花先形金具が取り付けてある。これも中世まで遡る部品で、本品の伝来の古さと確かさをしのばせている。

出典
特別展覧会 「金色のかざり」 金属工芸にみる日本美
解説:久保 智康 発行:京都国立博物館

詳しい解説を閉じる

金銅宝相華文如意